おひさしぶりです。スマートゲイン代表の大畑です。
2月にスマートゲインのサイトをリニューアルして以来、おかげさまで体重増加プログラムの参加者が急激に増えました。正しい知識で健康的に美しく太ろうとする方が増えていくのはとても喜ばしいことです。本気で体型を変えようとするモチベーションの高い参加者に囲まれて、とてもやりがいのある日々を送っているのですが、予想を上回る参加者の増加に、ここ数ヶ月間はブログが更新できずにおりました。楽しみにされていた方には本当に申し訳ございませんでした。
久しぶりの記事ですので、読み応えのあるテーマを選びました。今回のテーマは体質の変え方です。
無理して体重を増やしても、気を抜くとすぐに元に戻ってしまった経験はないでしょうか。例えば、頑張って沢山ご飯を食べる事を1ヶ月続けて、何とか1キロ太った。更に頑張って増やそうとした矢先に、仕事が忙しくなって食事が疎かになってしまい、気がついたらわずか数日で体重が元に戻っていた... 子供の頃からずっと痩せていた人、つまり体質で痩せている人にとても多い経験です。
なぜそうなるのでしょうか。そもそも、この「体質」とは具体的に何を表すのでしょうか? これらの疑問に答えるために、まずセットポイントのお話をしましょう。
あなたの体重を決める「セットポイント」
長い間同じ体重でいた事はないでしょうか。体重をキープする努力をしているわけでもないのに、体重を量るといつもほとんど同じ体重。食べる量は日によって違うにもかかわらずです。このように、普通に生活しているとなぜかいつも同じような体重で安定してしまうことがあります。このような最も安定しやすい体重の事を、体重のセットポイントと呼びます。一人一人が異なるセットポイントを持っていて、太りやすい人はセットポイントが高く、痩せやすい人は低い位置にあります。
このセットポイントを使って体質を説明すると、痩せやすい体質とはセットポイントが低い位置にある状態と言えます。
セットポイントの特徴
私は体重増加コーチとして今まで多くの方を指導してきました。その経験から分かったことは、標準体型に近い人よりも、痩せている人ほど体重を維持する力が強くなるという事です。そのため、セットポイントが低い人(体質で痩せている人)は、標準体重の人に比べて体重が変化しにくく、太ろうと努力してもなかなか結果がでてきません。それにはセットポイントのメカニズムが関わっています。
セットポイントのメカニズム
セットポイントは、「恒常性」と深く関わりがあります。恒常性とは、外部の環境が変わっても体内の環境はなるべく一定にしようとする働きで、生物が生き残るために進化の過程で身に付けた能力です。これは言い換えれば現状を維持する機能です。我々人間も含めたすべての生物は、体重も含めてなるべく現状を維持するように自動的に調整されているのです。
では、どのようにして体重が維持されているのでしょうか? 大雑把に言えば、これには2つの調節が働いています。摂取カロリーの調節と、消費カロリーの調節です。
太らないメカニズムその1
摂取カロリーによる調節 ‐ 摂取カロリーが増えると栄養の吸収率が下がり、逆に摂取カロリーが減ると吸収率が上がる。
この調節は、摂取カロリーが減る時よりも増える時の方が調節されやすいため、太っている人よりも痩せている人の方がこの調節能力が高い傾向があります。
例を上げて説明しましょう。皆さんは大食い選手権に出場するフードファイターと呼ばれる方々をテレビで見たことがあると思います。一般人が数人がかりでも食べきれないような膨大な量の食事を、トップレベルのフードファイターはたった一人で平らげてしまいます。しかし、それほど食べるにも関わらず、一流のフードファイターのほとんどがスリムな体型をしています。いわゆる「痩せの大食い」の極端な例です。フードファイターがなぜ1万キロカロリー食べても痩せたままなのか疑問に思う人も多いでしょう。答えは、彼らの摂取カロリーの調節能力にあります。太りやすい人なら、食べる量が2倍になるとその分体内に入るカロリーも2倍になるのですが、太らないフードファイターは膨大なカロリーを摂取すると吸収する割合が大幅に下がり、その結果、2000kcal食べている時と10,000kcal食べている時で体内に入るカロリーにはあまり差がでないのです。これでは、食べる量を増やしても体重は殆ど変わりません。
フードファイターほど極端に摂取カロリーを自動調節してしまう方は珍しいのですが、それでも、体質で痩せている人の多くは摂取カロリーがある程度は自動的に調節されているため、単純に食べる量を増やしても、体重増加には結びつきにくいのです。これにはピンとくる方も多いのではないでしょうか。
この調節能力がどのぐらい働いているかを判定するには、身長の伸びが止まってから現在までの体重の変動幅(最も重かった体重と軽かった体重の差)を見ます。過去の体重の変動幅が少ない方ほどこの調整能力が高く、広いほど自動調整力が弱い事が推定されます。
例えば、過去の最低体重が43kg、最高体重が45kgなら変動幅は2kgになり、摂取カロリー調整能力はとても高い事が予想されます。特に、太ろうと努力した事があるにもかかわらず幅が2〜3kgしかない場合は、摂取カロリの自動調節能力が極めて高い部類に入ります。このような方は、自己流で太ろうとしても殆ど結果が出ないのが普通です。逆に過去の体重変動幅が8kgあるなら、この調整能力はそれほど高くはないので、自己流でもある程度は体重を変えられるでしょう。しかしそのような場合でも、子供の頃から痩せている人は、気を抜くと体重が元に戻ってしまうので、体型を変えるのは容易ではありません。
太らないメカニズムその2
消費カロリーによる調節 ‐ 摂取カロリーが増えると自動的に消費カロリーが増え、逆に摂取カロリーが減ると消費カロリーが下がる。
この調節は、摂取カロリーが増えた時よりも、減ったときにより強く働きやすいため、太りやすい人のほうがこの調節能力が高い傾向があります。太りやすい人が痩せるために食事制限しても、体重が少し減っただけですぐに下げ止まってしまうのは、食事制限によって下がった摂取カロリーに合わせて自動的に消費カロリーまで下がってしまうからです。
ところが、痩せやすい人の場合、摂取カロリーが下がっても消費カロリーは下がらないことが多く、例えば風邪を引いて食事量が減るとあっという間にもっと痩せてしまう人が多いのです。
この調節は摂取カロリーが減った時に強く働くと言いましたが、中には摂取カロリーが増えた時に強く働く方もいます。子供の頃から痩せていて、平熱が高く、食事をすると体中が暑くなるタイプの人に多いのですが、このタイプは、食事量が増えると自動的に消費カロリーが上がって、カロリーの増加を打ち消してしまいます。このタイプで摂取カロリーの自動調節も強く働くタイプだとかなりの精度で体重を維持します。体重を変えるために様々なことにトライしたにも関わらず、過去の体重変動幅が1kg以内の方は、このタイプの可能性が高いでしょう。
体質を変えるには
さて、今日の本題です。先ほど、痩せやすい体質 = セットポイントが低い、ということをお話しました。では、セットポイントが高くなれば体質はどう変わるでしょうか?
セットポイントが高くなれば、身体が以前よりも高い体重を維持しようとするので、風邪などを引いて一時的に体重が下がっても、高い体重に戻ろうとします。これは前よりも太りやすく(高い体重に行きやすく)なったということです。
つまり、セットポイントを上げることが体質を変えることなのです。
セットポイントを変える唯一の方法
では、セットポイントを上げるにはどうすればよいのでしょうか。このお話をするためには、セットポイントのもう一つの特徴を理解する必要がります。
その特徴とは、「体重が変わっても、セットポイントはすぐには変わらない」というものです。
セットポイントは言い換えれば現状を維持するメカニズムです。現状を維持するために働く、つまり変化させないためのメカニズムなので、残念ながらそう簡単には変わりません。しかし、絶対に変わらないというわけでもないのです。ポイントは「すくには」変わらないというところです。すぐには変わらない、ということは、時間をかければ変えられるのです。
大切なことなのでもう一度言います。セットポイントは現状を維持する仕組みです。今まで痩せていた人ががんばって体重を増やしても、基準になっているのは痩せていた時の身体なのでその体型にまで戻そうとします。しかし、何らかの方法で増えた体重を維持したらどうでしょうか? 例えば半年維持したとします。すると身体にとってはだんだん増えた身体が基準となり、セットポイントが上がってくるのです。
つまりこういうことです。
増えた体重を維持すればセットポイントは上がる。
痩せていることに悩む多くの方が体質が原因だと考えます。そのため、なんとか体質を変える方法はないかと考えます。
それは正しい考えです。なぜなら体質を変えない限りいつまでたっても身体が痩せていた体型に戻ろうとするからです。
間違っているのは順番です。ほとんどの方は先に体質を変える方法を探します。つまり、体質が変われば太れる、と思っているのです。
実際は逆です。体型を変えてそれを維持すれば体質が変わるのです。先に変えるのは体質ではなく、体型なのです。
まず先にやるべきことは先に体重を増やす(体型を変える)ことです。これは痩せた体型を維持しようというメカニズムが対抗するので、正確な知識がないと大変難しいですが、正しい方法できちんと行えば十分可能です。例えば、カロリー増加に伴う吸収力の低下を最小限に抑える食事法や、栄養投入タイミングの最適化、体内に取り入れた栄養素を細胞に同化させるための適切なトレーニングなどを、ライフスタイルに合わせて計画をたてます。残念ながら、これ1つだけ守れば体重は増やせるという単純な理論はないので、ここでその全てを説明することは出来ませんが、体質で痩せている人でも体型は変えられるのです。
先に体型を変えたら、今度はそれを一定期間維持します。2〜3ヶ月では体質はあまり変わりませんが、半年や1年維持すると、以前の痩せていた時の体重付近にあったセットポイントが、現在の増えた体重へと近づいてきます。例えば以前は45kgにセットポイントがあった方が、3ヶ月かけて50kgに増やしたとしましょう。3ヶ月ではまだセットポイントは45kgかせいぜい46kg付近でしょう。なので、その時期に生活をもとに戻してしまうと体重も速やかにもとに戻ります。しかし、その体重を長く維持するとセットポイントは50kgに近づきます。人によってセットポイントが上がるために必要な期間は違うので、増えた体重までセットポイントが上がるのに必要な期間は一概には言えませんが、一般的には1年も続ければ上がった体重にかなり近づきます。最初45kgだった体重を50kgにして長期間維持していれば、たとえ風邪を引いて体重が落ちたとしても今度は増えた後の50kgの体重に戻ろうとします。但し、体重が増えればそのぶん消費カロリーも上がるので、その分だけは普段のカロリーも以前より上げる必要があります。
体質を先に変える方法は本当に無いの?
では、体質だけを先に変える方法は本当に無いのでしょうか。
例えば、漢方などに体質改善を謳うものがあるようです。体重増加プログラムの参加者は過去に様々な方法で体重を試みている方がいますが、その中に漢方を使っていた方々もいます。漢方を使って少し体重が増えたという話も聞くので、場合によっては体重増加効果もあるようです。
ならば漢方で体質が変わったのではないかと思うかもしれませんが、私はそうは思いません。なぜなら、効果があった方も服用をやめると体重がもとにもどっているからです。もし本当に体質が変わっているなら、服用をやめても摂取カロリーや生活状況が一緒なら体重をキープするはずです。しかし、参加者の事例では体重はもとに戻っていました。この場合、漢方によって体質が変わったわけではなく、服用している間だけ体重増加効果があったと考えられます。但し、その状態を長く続ければセットポイントも上がるので、漢方をやめても体重が下がりにくくなる可能性があります(とはいえ僅かな体重増加幅(例えば1〜2kg程度)ではセットポイントは変わりにくいので、長期間続けてもやめた時に体重が戻る可能性もあります)が、それは漢方が直接体質を変えたわけではなく、結局、体型が変わったことによって体質が変わったということになります(広い意味での体質改善に効果がある可能性は否定しません)。
この話とは別に、実は体質が先に変わる方法があります。但し、先にお断りしますが、全くおすすめできない方法です。
その方法とは、「無理やり食べる事を長期間続ける」というとてもシンプルな方法です。無理して大量に食べるということを続けていると、人によっては数年後に突然吸収力が上がり、体重が増え始める方が実際にいます。その場合、それまで体型が変わっていないにも関わらず、先に体質が変わって消化吸収力が上がり、その後に体重が増え始めます。現実にこのようなパターンで先に体質が変わる例はあるのですが、これはお勧めできません。
なぜお勧めできないのか。その最も大きな理由は「再現性が低い」ことです。この方法を試した人の中で、一部の人だけに効果があり、多くの人に効果があるわけではないのです。また、無理にでも大量に食べることを続けるため、内臓に負担がかかることも避けるべき理由です。更に悪いことに、効果が判明するかどうかがわかるには数年掛かってしまうため、効果がない事がわかった時には、数年間に渡る努力や、膨らんだ食費、健常上のリスクなどあらゆるものを既に大量に浪費してしまっているのです。
つまり、数年に渡る努力に何の結果が伴わないどころか体調まで崩しかねないので、この方法は避けるべきです。
しかしながら、この何の知恵も使わない方法が最も簡単に思いつく方法なので、「太る = 無理やり食べる」と思い込んでいる人が多いのもまた事実です。スポーツの指導者にもこのような考えを持っている方が残念ながら多く、この事が例えば痩せている運動部の部員には悲劇になることもあります。このような指導者は、痩せていて筋力が低い部員にはとにかく食べろと指導しますが、その根拠はとても貧弱です。無理やり食べることで何人かに一人が実際に身体が大きくなるので、それが正しいと思い込んでいるだけなのです。痩せているからという理由で無理やり食べさせられた方はたまったものでありません。そんな再現性の低い方法では効果が出るほうが珍しいにもかかわらず、実際にそれで劇的に大きくなる人もいるものだから、ならなかった人には「努力が足りない」となってしまうのです。
このブログ記事をここまで読んでいる方は、痩せている身体をなんとか変えたいと思っている方が多いと思います。そんなあなたはもしかすると無理やり食べることにチャレンジした事もあるかもしれません。それでうまく行かなかったのはあなたの努力が足りなかったからではないのです。ほとんどの人にとってその方法では効果がでないのですから。
無理やり食べて太りやすい体質になる少ないチャンスに掛けるのではなく、正しい方法を学んで先に体型を変えましょう。そうすれば後から体質は変わります。
本日のまとめ
- セットポイントとは普通に生活していると何故かその体重になってしまう体重、つまりその人にとって最も安定しやすい体重のこと。
- 「痩せやすい体質」とは「体重のセットポイントが低い」ということ。なので、痩せやすい体質を変えるとは「セットポイントを上げる」こと。
- セットポイントは現状を維持するメカニズムであり、それには2つの調節が働いている。 ・摂取カロリーによる調節: フードファイターがいくら食べても太らないのはこの調節能力が高いため。
- セットポイントはすぐには変わらないが、長い時間をかければ変えることができる。先に体重を増やしてその状態を長く維持すれば、増えた体重にむけてセットポイントが上がっていく。つまり、セットポイントを上げることで体質は変えられる。
- 無理やり食べる事を長期間続ける事により体質が変わる場合もあるが、変わらない人のほうが多いし、なにより身体に悪いのでやめよう。
- 子供の頃から痩せている人でも、体質は変えられる。
・消費カロリーによる調節: 一般的には痩せる方向には働きにくいが、人によっては(強力なヤセ体質の方には)この調節も働くため、ドカ食いしようが風邪を引こうがかなりの高精度で体重をキープする。